生物多様性の保全
生物多様性に関する方針
事業活動において、生物多様性や自然資本から提供される生態系サービスの恩恵を受けており、持続可能な企業経営の観点からも、生物多様性保全の重要性を認識しています。
当社は、国際社会がめざす「ネイチャーポジティブの実現」を支持し、その実現に貢献するため、バリューチェーンを含む事業に伴う生物多様性への影響低減や森林破壊につながる土地開発への配慮の取り組みを推進します。
また、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の理念に賛同し、情報開示フレームワークに基づき積極的な情報開示を進めていきます。
通信サービスの安定提供は事業者の責務であると認識し、当社は、通信サービス提供のため全国に約30万局の基地局を建設し運用しています。
一方で、日本には多様な生物の生息・生育環境が広がり、生態系サービスの根幹となる生物多様性保全上の重要エリアが存在することを認識しております。これらの認識の下、事業が生物多様性に与える影響に関するリスク評価を実施しています。
そして世界および国内において、生物多様性の重要地域における事業に伴う基地局建設等の土地開発を回避することを基本とし、やむを得ず行う場合は、生態系に及ぼす影響に十分に配慮し、重要な生態系に著しい影響が想定される場合はその最小化および回復に努めています。
また、土地開発による生物多様性への影響軽減の取り組みをマテリアリティ(重要課題)のKPIに設定し、森林保全への貢献等、オフセット活動を含むノーネットロスに向けた取り組みを実施します。
生態系が機能する持続可能な地球を次世代につなぐため、当社事業はもちろん、一次サプライヤーや二次以降のすべてのサプライヤーおよびビジネスパートナーに対して生物多様性への取り組みに協力をいただきます。また、外部パートナーと協働し、事業活動や社会貢献活動を通じて、生物多様性保全の取り組みを推進いたします。
ガバナンス
国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の達成への貢献を重要な経営課題と捉え、取り組むべきマテリアリティを特定し、マテリアリティの一つとして「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」を設定しています。
このマテリアリティに関する対応の推進のために、取締役会の諮問機関としてESG推進委員会を2020年3月に設置しました。代表取締役社長をESG最高推進責任者とし、取締役会の監督の下でサステナビリティ活動全体の最終責任を負います。
ESG推進委員会は、ESG最高推進責任者であり委員長である代表取締役の下、取締役および委員長が指定したメンバーにて年4回開催し重要事項を議論し、取締役会に付議します。
2023年度のESG推進委員会では、生物多様性に関する方針を定め、土地開発に伴う生物多様性の影響軽減をマテリアリティのKPIに設定しました。
また、リスク等の管理および取り組みの社内推進、業務遂行する機関として、ESG推進担当役員の下、環境委員会を設置しています。環境委員会はCSR本部長を委員長とし、当社各事業部および主要な当社グループの環境担当者で構成し、ネイチャーポジティブ実現に向けた具体的な施策を推進します。
戦略
生物多様性や気候変動など地球環境に関わる自社および自社事業の隣接地域、サプライチェーン上下流を含めた依存と影響、事業リスクの評価を実施しています。
ESG推進担当役員の監督の下、CSR本部長を委員長とし当社各事業部および主要な当社グループの環境委員で構成する環境委員会にて年1回以上の選定や見直しを行っています。
特定された依存と影響、事業リスクは、CSR本部の環境専任部隊により、さまざまな外部要因等を勘案の上分析し、ESG推進担当役員による評価を行います。
分類 | 依存 | 影響 | 事業リスク | |
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物理的リスク | 社会的リスク | |||
水 | 無線機等に利用する半導体製造時の大量使用 | 過剰取水による渇水・地盤沈下の誘因、水質汚濁 | サプライチェーンの水不足による製品調達への影響 |
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サーバーの冷却水 | 水不足による事業推進への影響 | |||
森林 (土地利用) |
無線機へ使用する希少金属等の供給 | 鉱山開発に伴う森林伐採、土壌汚染 | サプライチェーンの規制強化による製品調達への影響 | |
主に山間部の基地局の防災機能 | 建設に伴う土地形質の変更による森林の伐採、除草等 | 規制強化による事業推進への影響 | ||
大規模設備の建設用地 | ||||
製品、販売へ使用する紙類の供給 | 紙パルプ製造に伴う森林伐採 | |||
その他 | 事業に伴う廃棄物、E-wasteが適切に処理されない場合の土壌汚染等 | |||
製品、販促物等へ使用するプラスチックが適切に処理されない場合の海洋流出等 | ||||
製品等の輸入に伴う外来種流入の誘因 |
上記の結果および当社固有の状況を勘案し、基地局設置に伴う土地利用による生物多様性に与えるリスク評価を実施しました。
当社は国内通信事業を主力サービスとし、全国約30万局の基地局を運用しています。通信ネットワークは社会に必要不可欠なライフラインであり、最新かつ高品質なネットワークの構築と、安定的で信頼性の高い通信サービスの提供は、通信事業者の責務であると考えています。
生物多様性の棄損(きそん)に伴う森林の減少や荒廃を要因とした土砂災害発生のリスクは年々増加しており、当社の山間部に設置した基地局の安定的な運用は生物多様性に依存しており、一方で、基地局の新規建設に伴う土地開発により、生態系に重要な地域に影響を与えるリスクがあることを認識しています。
国立公園等は優れた自然景観の保護のため開発等を制限する一方で、利用促進のための利用施設の整備を行っており、当社は社会インフラとしての通信サービス安定提供の責務を果たすため、やむを得ず自然保護区にネットワーク設備を設置する場合があります。一例として屋久島や小笠原諸島などの国や国際条約で定められた自然保護地域へ基地局を設置しておりますが、当社が設置する全ての基地局を対象に当該リスクのある基地局を分析し、該当局について、設置場所と生物多様性の重要エリアの近接性調査を実施した結果、生物多様性の重要性、完全性の観点から、緊急に対策の必要な設備がないことを確認しております。
建設時に必要な手続きを行うことはもちろん、生物多様性の重要地域への設備建設の回避を基本に、今後もさらなるリスク評価を進めます。
生物多様性のリスク評価は、TNFDフレームワークのベータ版で示されたLEAPアプローチを参考に、Natural Capital Finance AllianceがUNEP-WCMCと共同で開発したオンラインツール「ENCORE」により当社事業活動の生物多様性への依存と影響の程度を把握した後、依存と影響の程度が高いと考えられる事業活動(特に通信事業における基地局建設)について、各拠点ごとに生物多様性の重要エリアの近接性に基づくリスクの把握や、総合的な水リスクの確認を行っています。
各拠点ごとのリスク評価には、国土交通省や環境省による国立公園などの自然保全地域データや「KBA」(生物多様性重要地域)の地理情報データ、世界自然研究所(WRI: World Resources Institute)の水リスク評価ツール「アキダクト(Aqueduct)」を使用しています。
機会については、当社の強みであるAIやIoT、ビッグデータなどの最先端テクノロジーを活用した生物多様性、自然資本の保全に関わる取り組みを推進するほか、TNFDのフレームワークに基づく情報開示や、ネイチャーポジティブ実現につながる活動の積極的な情報発信を行うことで企業価値の向上に努めます。
リスクと影響の管理
全社的なリスクの特定と顕在化を防止するため、社内でさまざまな角度から分析をする管理体制を整えています。
各部門が現場で各種施策を立案する際にリスクを含めた検討を実施するとともに、リスク管理室が、全社的・網羅的リスクの把握と対策状況のチェックを定期的に実施し、リスク管理委員会(社長、副社長、CFO等を委員とし監査役や関係部門長などが参加)に報告しています。
リスク管理委員会では、リスクの重要度や対応する責任者(リスクオーナー)を定め、対策指示等を行い、状況を取締役会に報告します。
内部監査室は、これら全体のリスク管理体制・状況を独立した立場から確認します。環境委員会で管理される生物多様性や気候変動など、地球環境に関わるリスクは、全社リスク管理と統合し、定期的なリスクマネジメントサイクルを回すことにより、リスクの低減と未然防止に取り組んでいます。
指標と目標
当社は、社会インフラとしての通信サービス安定提供の責務を果たすため、やむを得ず国や国際条約で定められた自然保護区にネットワーク設備を設置する場合があります。
2022年度に国や国際条約で定められた自然保護地域へ設置した通信設備などの設置面積は、492㎡になります。
当社はこれまでも森林保全等への貢献を行っていますが、2023年度は前年度(2022年度)の自然保護地域などの開発面積以上の森林保全等への貢献を目標とし、今後も継続的に実施する予定です。