ニーズに寄り添い、
果敢に挑戦を続けることで
お客さまとの信頼関係を構築し
競争を勝ち抜く

代表取締役 副社長執行役員 兼 COO

榛葉 淳

ソフトバンクの強みは「組織力」

コンシューマ事業を統括する榛葉と申します。1985年に新卒で入社し、ソフトバンク一筋でもう36年になります。私が入社した当時のソフトバンクは、社員数100人前後。まさにスタートアップの会社でしたので、何もかもが全て手探りでした。2000年代にはブロードバンド事業とモバイル事業の立ち上げに関わりましたが、これらは現在コンシューマ事業を代表するビジネスになっています。その後はコンシューマ事業のマーケティングの責任者として今までにない画期的なプロモーションに挑戦し、さらに法人事業での経験を経て、2017年に代表取締役副社長に就任し今に至ります。

さまざまな部門を経験してきた私が改めて思うのが、ソフトバンクという会社の強みの一つは、その「組織力」にあるということです。ソフトバンクでは、経営者から社員ひとりひとりに至るまで、全員が一つの理念、ビジョン、戦略を共有しています。皆が同じゴールを目指して逆算で考えて行動することができる、これがソフトバンクの強さの秘訣なのです。私も事業統括という立場になった時、コンシューマ事業として社員ひとりひとりと共有すべきビジョンは何かを考えました。ソフトバンクの経営理念は「情報革命で人々を幸せに」。コンシューマ事業であれば、われわれのサービスをお使いいただいているユーザーの皆さまが今何を求めているのか、数年後どんなニーズが出てくるのか、やはり一番に考えるべきはお客さまなんです。一方でわれわれはビジネスをやっているわけですから、競合他社に負けるわけにはいきません。そこでたどり着いたのが「トラストゲーム・ウィナー」というスローガン。果敢に挑戦を続け、お客さまと最も深い信頼関係を築けた企業こそが、厳しい競争環境を勝ち抜くことができるというメッセージが込められた言葉です。

お客さま第一のサービスを追求すれば、結果は必ずついてくる

コンシューマ事業は、年間6,000億円以上の営業利益を安定的に創出する当社のコア事業です。「Beyond Carrier」戦略の下、新規ビジネスを次々と立ち上げ拡大させていこうとする当社にとって、コンシューマ事業が生み出すこの安定的な収益は欠かすことのできない成長の原動力となっています。そんなコンシューマ事業も、当社がボーダフォン日本法人を買収しモバイル事業に本格参入した2006年当時の営業利益は718億円※1。わずか15年で営業利益を9倍にすることができた背景には、「トラストゲーム・ウィナー」となるべく社員一丸となって取り組んできた挑戦の歴史があります。

まずは、2007年に発表した「ホワイトプラン」。当時のモバイル市場では、各社が提供する料金プランがどれも複雑で分かりづらいという不満の声が多く寄せられており、当社はそこに着目しました。シンプルかつリーズナブルな「ホワイトプラン」は多くのお客さまの支持を受け、当社の契約数は大きく拡大しました。また、当社の飛躍のきっかけとなった2008年のiPhoneの日本独占販売でもお客さま第一の姿勢は変わりません。発売当初は日本のユーザーが求める機能が一部不足していたiPhoneですが、当社が米アップル社に掛け合い改良に繋がったことで、iPhoneは今日に至るまで日本のお客さまに広く愛され続ける商品となりました。

「トラストゲーム・ウィナー」の考え方の下、当社は価格面でも常にリーディングカンパニーであり続けました。例えば、まだ他社が月間データ容量3GB、5GBのプランを主力としていた頃、当社は先駆けて20GB、50GBの大容量プランを打ち出しました。動画やゲームといったデータ消費量の大きいコンテンツをスマホでストレスなく利用したいというお客さまが、今後必ず増えてくるだろうと考えたのです。結果としてこれらは当社の大ヒットプランとなりました。また、一つの企業が特徴の異なる複数のモバイルブランドを提供するマルチブランド戦略は、今でこそこの業界のスタンダードな戦略となっていますが、この戦略をはじめに打ち出したのは実はソフトバンクです。中・小容量帯で低価格プランを提供するMVNO※2が相次ぎ市場に参入した2014年、MNO※3の高い通信品質をMVNOに近い価格帯で提供する新ブランド「ワイモバイル」を立ち上げました。破格ともいえるプライシングは業績の低下に繋がるのではないかと、社内でもかなり議論はありましたが、やはり最後はお客さまのニーズに応えようということになったのです。「ワイモバイル」の導入によりユーザー一人当たりの収入であるARPUは確かに低下しましたが、大容量の「ソフトバンク」と中・小容量の「ワイモバイル」をそれぞれしっかりと特徴付けてブランディングしたことで二つのブランドはどちらも順調に契約数を伸ばし、スマートフォンの契約数は6年で1.8倍の2,593万件となりました。その結果、モバイルの売上高は一時的に減少しましたが、2018年3月期を底に反転しそれ以降は毎年増収を続けています。

常にお客さまに一番良いものは何か考え、ニーズに合ったサービスを攻めの姿勢で提供し続ける。挑戦的な料金プランを出せばARPUが下がることもありますが、お客さまと深い信頼関係を築いていけば、必ず結果はついてくる。結果とは、つまり契約数です。売上高はARPU掛ける契約数ですから、この契約数が伸びてくれば売上高の拡大に必ず繋がっていくんです。コンシューマ事業はこの信念を元に、2024年3月期スマートフォン契約数3,000万件という高い目標を掲げ、社員一丸となって取り組んでいます。

[注]
※12006年3月期のソフトバンクグループ(株)のブロ-ドバンド・インフラ事業セグメントおよび固定通信事業セグメント、ボーダフォン(株)の合計。日本基準に基づく数値
※2仮想移動体通信事業者。Mobile Virtual Network Operatorの略称
※3移動体通信事業者。Mobile Network Operatorの略称

増収増益の一方、競争環境が激化した2021年3月期

2021年3月期のコンシューマ事業の売上高は前期比2.7%増の2兆7,704億円、営業利益は前期比1.8%増の6,586億円となり、増収増益を達成しました。通信料金と端末代金を分離するプランの浸透や比較的料金が低い「ワイモバイル」の構成比が上昇したことでARPUは低下しましたが、スマートフォンの契約数は前期末に比べ179万件増加の2,593万件となりました。加えて、テレワークの広まりを背景に、ブロードバンドや電力サービスの契約数も伸長しました。ブロードバンドサービスは、特に光回線工事が不要な「SoftBank Air」が好調でした。電力サービスは、コロナ禍における外出自粛のため自宅にいる時間が長くなり、電気料金への関心が高まったことが追い風となり、契約数が前期比51%増加の174万件となりました。

一方で、2021年3月期はモバイル市場における競争が激化した年でもありました。きっかけは総務省が発表した「月間データ容量が20GBのプランを選択した場合、日本の通信料金が世界で最も高い」という調査結果※4です。これにより、より低廉で多様な料金やサービスを求める機運が国内で高まったことを受けて、大手通信キャリア各社はデータ容量を20GBとしたオンライン受付専用の新ブランドの立ち上げるとともに、既存ブランドの料金引き下げを実施しました。当社もデータ容量が20GBで月額2,480円(税抜)となるオンライン専用ブランド「LINEMO」の提供を2021年3月からスタート。また同時に、「ソフトバンク」「ワイモバイル」でも料金の引き下げを行いました。

[注]
※4総務省「電気通信サービスに係る内外価格差調査」

2022年3月期は通信料金値下げの影響で減益を見込む

2022年3月期の業績は通信料金値下げの影響によりARPUが低下するため、約700億円のマイナス影響を見込んでいます。これは低廉な新プランで新規ユーザーの獲得が進むことに加え、既存ユーザーがより割安な料金を求めてプラン変更を行う影響を含んでいます。このマイナス影響をカバーすべく引き続きスマートフォン契約数の増加に努めるほか、ブロードバンドや電力サービスの拡販、およびコスト削減に注力していきますが、2022年3月期のコンシューマ事業の営業利益は前期比で百数十億円の減益になると予想しています。

今後の成長のカギはグループシナジー

冒頭に述べた通り、当社が目指すのは「トラストゲーム・ウィナー」。ニーズにマッチした革新的なサービスでお客さまと信頼関係を築き、契約数の拡大によって成長を実現するのがソフトバンクのモバイル戦略です。値下げによって各社が料金面で横並びとなっている中、いかに当社を選んでいただけるようなサービスを提供できるかが、今後契約数を伸ばす重要なポイントとなります。そこでカギとなるのが、グループシナジーです。当社は「Yahoo! JAPAN」「LINE」「PayPay」など国内最大級のユーザー数を誇るサービスをグループ内に持っています。これらのサービスとモバイル通信サービスの連携を強化することで、当社ならではのシナジーを活用したメリットをお客さまに提供できます。具体的には、2017年からヤフーのeコマースと連携し当社のモバイルユーザーに割引などの特典を提供しており、モバイルの新規ユーザーの獲得や解約の抑止に繋がっています。また、2021年3月にスタートした新ブランド「LINEMO」は、国内約8,900万※5のユーザーを誇る国民的メッセージアプリ「LINE」がデータ容量を消費せずに使い放題となるサービスが好評を得ており、契約数を順調に拡大しています。さらに2021年7月には、「LINEMO」に月間データ容量が3GBで月額900円(税抜)の「ミニプラン」を追加しました。2020年の議論の中心は20GBプランでしたが、当社が独自に行ったユーザーアンケートでは「もっと小さいデータ容量プランがほしい」という声が多く、その声に応えるべくすぐに導入に踏み切ったものです。当初の目的であった他社新プランへの流出抑止だけでなく新規ユーザーの獲得にも繋がっており、お客さま第一の攻めの姿勢が結果に繋がったものと考えています。このような取り組みをさらに深めることで差別化を図り、お客さまに当社を選んでいただけるよう努めてまいります。

短期的には通信料金値下げによる業績へのマイナス影響を見込んでいるのは事実ですが、お客さまのニーズに寄り添い、当社の強みであるマルチブランド戦略に磨きをかけグループシナジーを追求することで、必ず契約数の増加、ひいてはコンシューマ事業を再度成長軌道に乗せることができると確信しています。

[注]
※5月間アクティブユーザー数(2021年6月時点)

全社一丸となって進める「Beyond Carrier」戦略

最後に、全社戦略のなかでコンシューマ事業が果たしていくべき役割について、私の考えを少しお話ししてみたいと思います。当社が掲げる「Beyond Carrier」は、非通信領域で新規事業を次々と立ち上げ拡大させていくことで企業価値をさらに高めていこうとする戦略です。新規事業はプロダクトの革新性が注目されがちですが、それを新たなサービスとして広く世間に根付かせようとするときに重要になってくるのは地道な営業活動です。具体的な事例でお話ししますと、例えば2018年10月にサービスを開始した「PayPay」は現在日本で圧倒的なシェアを誇るスマートフォン決済サービスとなりましたが、この立役者となったのが実はわれわれコンシューマ事業なのです。PayPayの立ち上げにあたり、われわれコンシューマ事業は執行役員本部長以下、200人以上の社員をPayPayに送り込みました。かつてブロードバンドサービスを一から立ち上げて成功に導いた営業ノウハウを受け継ぐ彼らは、圧倒的なスピードで営業組織を立ち上げ、数千人のスタッフを教育し、全国のお店を一軒一軒回って加盟店を次々と開拓していきました。現在、さまざまな会社が新しいビジネスを立ち上げようとしていますが、誰もがこのように大規模な営業活動を展開できるかというとそうではありません。コンシューマ事業で鍛えられてきた精鋭の営業部隊を擁するソフトバンクだからこそできたことだと思います。最初に当社の強みは「組織力」だと申し上げましたが、今回の「PayPay」の事例はまさに、全員で一つの目標に向かい事業の垣根を越えて一致団結したことにより、生まれた成功といえるでしょう。当社は第2・第3の「PayPay」のような事業を生み出すことを目指しており、コンシューマ事業としても優秀な営業人材を送り込むなど、できることはどんどんやっていく所存です。

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