ニューノーマルを実現するデジタルの力

2020年8月17日掲載

New normal concept with finger man pointing text with the concept after the virus epidemic.

いま世界はニューノーマルに向かって動き出しています。個人の暮らしも、仕事の仕方も、産業構造も、経済活動のあり方も、今までの常識が大きく変わろうとしています。では、ニューノーマルな時代に通用する常識とはどのようなものなのでしょうか。目指すべき社会や個人の暮らし方、働き方を実現するにはどうしたらよいのでしょうか。不安や疑問はつきません。ですが、デジタルのさらなる活用で、新しい可能性、新しい社会活動が実現できるだろうと考えられてもいます。そこで今回はニューノーマルな時代へと個人が、企業が変化するためにデジタルがどのように生かされるのか、考えてみましょう。

目次

ニューノーマルとはどういうこと?

ニューノーマルとはさまざまな要因によって社会が大きな影響を受けた結果、いままでの常識やさまざまな活動様式が変わり、新たに構築される常態のことをいいます。

ニューノーマルという言葉は、2000年代前半にインターネットの普及によって、従来の経済理論やビジネスにおける常識が通用しなくなった頃から使われ始めました。第1回目のニューノーマルな時代が到来した結果、社会基盤のひとつとしてデジタル通信が、個人の生活においてもビジネスにおいても使われ始めました。

次のニューノーマルな時代は、2008年から2009年に世界経済を巻き込んだリーマンショックによって引き起こされました。経済のあり方、価値観が大きく変わったのがこのときです。行き過ぎた資本主義に批判が集まり、企業活動の社会的責任が問われるようになったのです。

そして今回が第3回目のニューノーマルな時代の到来ということです。今回の変革はどのようなものなのかを見ていきましょう。

場所と時間にとらわれない社会

今までの社会では、人と人が直接的に出会い、会話をし、理解し、互いに納得することで、取引が成立したり、関係性が深まったりするのが常識とされていました。どちらかというと、実際に対面することで得られることの重要性を大切にしてきたともいえます。

これから迎えようとしているニューノーマルな時代は、もちろん人と人が直接的に出会うことを否定しているものではありませんし、基本的に人と人の関係性を重視し、互いの理解を深めることで可能性が広がり、そのなかでビジネスが生まれてくるという点では、今までの常識と変わりはありません。しかし、物理的には大きく変化すると考えられます。例えば、人と人が直接会うことなしにつながることができる環境が充実したり、場所や時間に制限されずに自由度の高い働き方ができたり、オンラインで都市部と地方が同等のサービスを享受できたりするようになるでしょう。

ニューノーマルな時代になると、こうしたさまざまなものが「場所」「時間」といった要素に左右されずに提供され、誰もが広く利用できるようになると考えられます。

ニューノーマルな時代には充実したコミュニケーションが不可欠

ニューノーマルな時代には、人との関係性の構築をする上で、従来型の直接対面しての会話や、互いの考え方を理解するという手段を重視してきた社会より、さらに質の高いコミュニケーションが必要だと考えられます。

なぜなら、目の前にいる相手と話をしたり、考え方を理解したりするということは、相手から発言された内容だけではなく、相手のちょっとした仕草や表情、行動パターンなど、場を共有することで得られる情報があるからです。言い換えれば、オンラインでの会話や、オフィスに出社することなく遠方から同等の仕事をこなすようになると、周りの人の雰囲気や様子は情報として意識して把握しようと思わない限り、入手できない、あるいは知らずにすませることができる環境でもあるといえるからです。

では、そうした環境のなかで、より質の高いコミュニケーションを実現し、これまでより人と人のつながりを深めるためには何が必要なのでしょうか。最も注目されているのが、そうした活動を支えるためにテクノロジーを活用することで実現できるという考え方です。

ニューノーマルな社会への変化

では具体的にニューノーマルな時代で、何が変化するのかを、以下の3視点で探ってみましょう。

ライフスタイル

top view of mother and son using digital media. Modern online generation addicted to internet.

ニューノーマルな時代のライフスタイルがどのようになるのか、注目されているのが「サステナブル」という考え方です。

サステナブルというのは、持続可能であること、環境破壊をせずに維持継続できる、という意味の英語です。国連において1987年に環境と開発に関する世界委員会(WCED)が公表した「われら共有の未来」という報告書に示された中心的な考え方でもあります。

ニューノーマルな時代におけるライフスタイルは、こうしたサステナブルな暮らし方、つまり、人、社会、地球環境の持続可能な発展を意識したものへと変化するだろうと考えられます。

  • 食に関しては、健康を意識した食材をできるかぎり地産地消でまかなうことも、そのひとつの動きとして活発になるかもしれません。大量生産・大量消費ではなく、無駄のない量を必要な人に届けることが求められるでしょう。

  • 教育に関しては、オンラインでの学びと体験学習が今までより併用される動きが見えてきました。基礎や一般教養といった学びについては、自宅でオンライン授業を受け、体験を伴う学び、例えば実験やワークショップ、実地調査などは出向いて実施するといった工夫が当たり前になるかもしれません。

  • 診療や行政サービスに関しては、オンラインで提供されることがますます増えていくと考えられます。

  • 住まいに関しては、ワークスタイルにも関わることですが、どこからでも仕事ができる環境が実現されれば、都心部の人口集中が解消する可能性もあります。どこに暮らしていても、同じように仕事ができるのであれば、都心に拘らず暮らしやすいと感じる場所に拠点を持つ人が増えるかもしれません。

こうした事例はほんの一部ですが、多くのものやサービスが、必要なところで必要な量だけ、ネットワークを介して享受するようになると考えられます。

ワークスタイル

Motion blur of Japanese commuters in a station at Tokyo.

多くの企業で定時の出勤・勤務・退勤といったワークスタイルが見直されています。オンライン会議をはじめとしたさまざまなシステムが、ネットワーク環境を整えることで充実し、どこにいても社内と同様に仕事ができるようになりました。こうした変化は通勤にかける時間やコストを削減することにつながります。

また、リモートワークが中心になれば、働き方の条件という点では地域格差が解消されやすくなります。

一方、専門的な知識やコミュニケーション力といった、より高いスキルが求められる社会になる可能性も高いと考えられます。

ビジネススタイル

Abstract architecture of a modern building. close-up.

企業活動に注目すれば、顧客や取引先への営業活動を行う場合でも、ネットワークを介した活動が中心になるでしょう。

  • 取引や営業活動といった面では、今までの対面商談はリモートによる商品説明、サービス提供となり、契約手続きもデジタル化が当たり前になると考えられます。こうした変化は、より個別なサービスがタイムリーに行えるうえ、顧客や取引先と企業との地理的な位置関係にかかわらず、全国各地、世界中を活動範囲としてカバーすることを可能にします。言い換えれば、企業規模に左右されず、アイデアやコンテンツの良さが、より明確に企業成長を促す要素として認識されることになります。

  • 接客業務については、現金決済からキャッシュレス決済へのシフトにより、効率化がさらに図られていくでしょう。

  • 人材確保や育成は、多くの企業が重視する取り組みです。リモートワークをはじめとした自由度の高い働き方を実現した企業においては、より優秀な人材を場所や働く時間帯といった制約に左右されずに確保することが可能になります。また、ウェビナーを使うことで、場所を固定しない研修を提供でき、従業員の専門性を高めるための機会を増やすことができます。このように人材の確保と育成は、今まで以上に柔軟にタイムリーに行われるようになると考えられます。

また、ビジネススタイルの変化は都市に集中していた企業が地方へ分散する可能性も示唆しています。さらには都市環境、地域活性化といった面でもサステナブルな変化であると考えられます。

さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透することで、オフィスを縮小したり、極端な場合はオフィスを持たずに企業活動を継続したりするケースも増えるかもしれません。

企業に求められる変化とは

lightbox with text IT'S TIME FOR A CHANGE on grass background - 3D rendered illustration

ライフスタイル、ワークスタイル、ビジネススタイルが変わるニューノーマルの時代が始まると、企業活動においても新しい発想で生産性を高めていく方法を考えなくてはなりません。まずはどのように企業が変化すべきなのかを要素ごとに考えてみましょう。

社内環境

業務環境の整備

出社が前提となっていた業務や従業員が手作業で行う必要があった業務を減らし、IoTやAIといったデジタルを活用することで、リモートワークでも社内活動の状態と同じ生産性を確保する体制を構築しなければなりません。

  • クラウド型グループウェアの活用:さまざまな場所から業務にあたる従業員どうしがオンラインでつながり、チームワークを発揮し、成果を上げるためには、活発なコミュニケーション、情報の共有や進捗管理などが必要です。それを実現するのがクラウド型グループウェアの活用です。

  • 紙業務のデジタル化、さらには自動化へ:書面による事務処理や勤怠管理といった業務をデジタル化することで効率化が図れるのみならず、さらにAIやRPAを活用して自動化へとつなげることも可能です。

職場環境の整備

ニューノーマルな時代では多様な働き方が実現されるため、勤務スタイルもさまざまです。在宅勤務、店舗勤務、サテライトオフィス勤務など、従業員が業務によって、あるいは家族の介護や子育てといった生活状況によって柔軟に選択できるようになります。それぞれの環境から業務を行うためには、安全性と快適性を確保する環境整備が必要です。

  • 場所にとらわれない固定電話環境の再現:リモートワークが当たり前になったニューノーマルな社会においても、企業の代表番号で音声連絡が統一されていることは重要でしょう。音声・固定電話サービスを活用すれば、どこで業務にあたっていても、スマートフォンやPCで会社の固定電話番号を利用することができます。

  • セキュリティの強化:VPNサービスを利用すれば、仮想の専用線を設けたセキュアな環境が実現できます。

  • 安全性の確保:AIカメラによる画像認識技術を活用して、オフィス勤務をする従業員の健康管理や、蛍光灯一体型カメラの活用で、オフィスが無人になる時間帯の防犯強化を図ることができます。

人材確保や従業員の育成方法のデジタル化

少子高齢化による慢性的な人手不足が進み、さらには多様な働き方が当たり前になる社会において、優秀な人材を確保し、さらには従業員に向けた適切な教育環境を提供することは企業成長を左右する重要な要素です。人材確保という点では、採用業務の効率化や場所にとらわれない採用をするための手段を構築する必要があります。

  • AI採用の導入:オンライン会議が定着しつつありますが、同様に採用時にオンラインでの面接を導入することで、場所を選ばず、人材を採用することが可能になります。またAIが面接官となるサービスを利用すれば、評価基準のばらつきを防ぐこともできるので、より客観的に最適な人材を確保することにもつながります。

  • 効果的な人材育成方法の構築:従来のようにオンライン講座を広く従業員に提供し受講させるだけでは、それぞれの進捗状況が把握できず、効果的な育成ができにくかったといえます。LMS(学習管理システム:※参照)のようなサービスを導入することで、それぞれの従業員の成績や学習進捗状況を人事担当者が把握し、状況に応じた教材・講義を提供することができます。
    ※LMS(学習管理システム:Learning Management System):eラーニングをはじめとするオンラインで実施できる学習教材を配信し、受講者の受講状況や成績などを統合して管理するシステム

社外への対応

リモートでの顧客対応

従来の営業や顧客対応は訪問・対面を基本としていました。ニューノーマルな時代においては、営業活動も顧客対応もリモートで行うことになります。ここで求められるのは従来の対面での対応よりも、さらに迅速で丁寧であることです。さらに契約をはじめとする手続きもデジタル化し、時間やコストの削減を図ることが必要とされます。

  • オンライン商談を基本とした迅速で詳細な情報提供体制の構築:対面で行われてきた商談がインターネットを介したオンライン商談になることで、移動時間やコストが削減されます。しかし、対面でなら顧客の言葉にならないニーズを、雰囲気や態度といった情報からも読み取ることができた可能性があります。そうした点をオンライン商談でも再現し、さらにより詳細な商品・サービス情報をタイムリーに提供することで顧客満足度を高める必要があります。ウェビナーを使った商品・サービス説明や蓄積データの分析を活用したニーズの掘り起こしなどが、それを可能にするでしょう。

  • 契約締結もデジタル化へ:IT化が進んだ現在においても、紙に印刷された契約書に印鑑を押すという慣習が残っている企業は少なくありません。しかしニューノーマルな時代において、商談もリモートで行われることが当たり前になると、契約締結もデジタル化に対応しておく必要があります。こうすることで、遠隔地の顧客とのやりとりも容易になり、さらには承認者の不在に左右されることなく、スムーズに業務を進めることが可能になります。

このように社内における変化や社外との対応に関する変化が、ニューノーマルな時代においては企業に求められることになります。言い換えれば、こうした変化に対応することで、ニューノーマルな時代においても、業績を伸ばすことが可能になると考えられます。

こうした企業の変化を実現するのがデジタルの力です。では、どのようにより高度化したデジタルテクノロジー活用に取り組めばよいのか、見ていきましょう。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の意味

The concept of business, technology, the Internet and the network. A young entrepreneur working on a virtual screen of the future and sees the inscription: Business transformation

ニューノーマルな時代はさまざまな社会変化に対応して企業が事業継続をし、人々が安全安心に暮らして行くための新しい常態を構築しなくてはなりません。そこでは社会を動かすシステムの信頼性や柔軟性、可用性が重要な鍵となります。

また、社会が抱える課題を解決するスピードもより加速されていくと考えられます。同様に企業活動において、事業を継続しながらも、問題解決への取り組みにはスピードが要求されるでしょう。

このようなニューノーマルな時代の中で、企業や個人の生活の変化を可能にするのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

2018年に経済産業省が『デジタルトランスフォーメーション(DX)推進ガイドライン』を取りまとめ、その後、各企業がDXを積極的に推進してきました。

ここでは、あらためてDXの意味を確認しておきましょう。

デジタルトランスフォーメーションの定義

DXとは2004年、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏によって初めて提唱されたもので、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。

経済産業省が策定したガイドラインによれば、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、定義されています。

デジタルの力

これまでも企業はあらゆる業務においてIT化を進めてきました。紙にプリントして郵送していた書類をPDFにしてメールで送信したり、紙で保管していた契約書や図面などをデータにして社内で一括管理したりすることが当たり前になっています。また在庫管理システムや会計システムといった基幹システムについても、多くのアナログなデータがデジタル化されたことで、ビジネススタイルは大きく変わり、企業の業務は効率化されました。

しかし、こうしたIT化では、アナログなデータをデジタル化したに過ぎません。より膨大なデータを企業活動の戦略に活用するような高度なデジタル化とはいえないものでした。

DXを推進することで、蓄積したデータは最適な形で戦略的に、柔軟に活用されます。人間にしかできないと考えられていた知的行動の一部をコンピュータで再現する「AI」や、モノをインターネットに接続して、情報を収集したり分析したりすることで新たなサービスを生み出す「IoT」が自在に利用できるようになります。

つまり、DXをより推進していくことで、ニューノーマルな時代に求められる企業の変化といった課題をクリアできると考えられるのです。

DXが実現するビジネス

Business communication concept. Business and technology.

ではDXによってどのようなビジネスがもたらされるのでしょうか。新しい企業活動の戦略やビジネスのやり方は、まず自社の強みと顧客ニーズの変化を知ることが重要であり、デジタルテクノロジーは新しい戦略やビジネスのアイデアを具現化するためのものであるといえます。

既存のビジネスにモバイルを利用したカスタマーサービス、遠隔サポート、IoTによる故障・不良などの予知といった最新テクノロジーを組み合わせることで、顧客満足を高めていくのが効果的な戦略となります。

例えば、自動車メーカのトヨタが提供しているコネクティッドサービスはIoTによる新しいサービスといえます。従来は、自動車メーカが販売したあとに自動車が故障したり、事故を起こしたりした場合、顧客が事故や故障の状況を警察やメーカに連絡をし、修理対応を依頼する、あるいは場合によっては救急車を手配する、という流れでした。自走が可能な場合なら、顧客が自力で修理工場に自動車を持ち込み、修理をしてもらっていました。

ですが、DXが進みIoTに対応した自動車では、顧客が乗った自動車が故障や事故を起こした場合、自動車メーカに直接連絡が入ります。連絡を受けた自動車メーカは、即座に顧客に安否確認と状況把握のための連絡を入れます。顧客が依頼するまでもなく、メーカは迅速な修理対応体制を整えることができるので、顧客満足度を高めることにつなげられるというわけです。

こうした一例は顧客満足度を高めるだけでなく、販売、メンテナンスといった総合的なサービスを提供できることにもなります。

言い換えれば、ニューノーマルな時代を勝ち抜くための企業戦略は、広く一律的なサービスを提供するのではなく、よりそれぞれの顧客に対応したサービスを的確に届け、顧客のニーズを喚起するサービスを生み出すことだといえます。そのために使うのがデジタルの力ということです。

デジタルの力を活用してニューノーマルな時代に対応する

Large group of shining and dimmed light bulbs with fibers in a shape of New and Old Way words isolated on black background; concept of Innovation, Development and Success

企業は働き方改革やBCP(事業継続計画)などをはじめ、進化するデジタル技術を効果的に活用して、ニューノーマルの時代に対応していかなくてはなりません。また個人においても、将来設計を見据えたうえで、新しい時代をどのように生きるのか、どのように働くのかを考え、それを実現するための方法を考える必要があります。

キーワードとなるのがサステナブルでしょう。無駄のない最適なものを求める動きに応えられなければ、企業が成長し続けることは難しくなります。個人においても求められるスキルを修得しつつ、将来設計に基づいた働き方を選び、健康的な生き方をすることが重要になります。

また、時間や場所に縛られない環境が実現することで、対面での対応が企業においても個人においても常識であったものが、リモートで対応することが基本になると考えられます。

そうなれば対面の場合以上に充実したコミュニケーションが必要になります。質の高い情報を活用できる環境、自己実現の可能性が広がる環境、人や社会とのネットワークが広げられる環境、といったデジタル技術を駆使した環境づくりについて、常に関心を持ち、最適な方法を選択していくことがニューノーマルな時代に対応する、ということではないでしょうか。

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